NEW ポートフォリオ戦略実践講座:「トランプ関税後の株式相場をファンダメンタルズの視点から検証」  (2025/04/21公開)


≪ ポートフォリオ戦略実践講座 ≫

   ー トランプ関税後の株式相場をファンダメンタルズの視点から検証 -

 トランプ関税の声明、発動、そして中国を除いて90日間の実施延期、さらこの頃では「何事も柔軟に対応することが大事で当然のことだ」とも言っています。米国の大統領は米国第一を掲げながら、世界経済をおもちゃにしてもて遊び、対象国が交渉をお願いしに来ることを面白がり楽しんでいるように見えなくもありません。

 こうした特異な情勢の中で株式相場の先行きを見通すのは極めて難しいところですが、こうした状況においてこそ、基本に忠実、すなわちファンダメンタルズに帰ることが大切です。
 当講座では日経平均に見合う、ファンダメンタルズに基づく指標として「基準相場」を計測、公開しています。

 当指標は第一の主要因として企業業績そして海外情勢を反映しつつ、さらに急激な環境悪に直面した際の企業の抵抗力の強さを表す企業の基礎体力を折り込むことで株式相場のファンダメンタルズとしています。

 これらのファンダメンタルズ要因として具体的には以下の指標を採用しています。

1.企業業績:日経平均ベースの予想1株当たり純利益(予想EPS)。
2.海外の情勢:海外の諸情勢の変化を集約的に表すと見られる円ドルレート。
3.企業体力:社内留保の厚さを示す日経平均ベースの1株当たり純資産(BPS)。

 下図は日経平均と上記の各指標に基づいて計測した基準相場の推移を2002年5月から直近の2025年4月までの33年余りに渡る推移を月次終値ベースで示したグラフです。

                日経平均と基準相場の推移(月次終値)
            ―2002年5月~2025年4月(2025年4月は18日終値)

   

 紺色の線が日経平均、赤線が基準相場です。
 この間、日経平均は全体として基準相場、すなわちファンダメンタルズに沿った形で順調な上昇基調を辿っています。期初の2002年5月に日経平均は1万1,763円、基準相場は1万2,632円であったのが、直近の2025年4月18日には日経平均が3万4,370円、基準相場は3万4,571円と、それぞれ2.9倍、2.7倍の上昇となっています。
 一方、この間リーマン・ショック、コロナ・ショックそしてロシアのウクライナ侵攻、またアベノミクス開始に伴う相場の底上げなど市場構造の変動による相場の急変では日経平均は基準相場と一時かい離しますが、間もなく基準相場に戻っています。
 これは、相場はファンダメンタルズを中心に変動するという株式市場の普遍原則が成り立っていることを示しています(同時に基準相場を決定する上記の3つの要素が株式市場のファンダメンタルズを的確に規定していると言えます(エヘン!))。

 下図はこれらファンダメンタルズを決定する3つの要因の推移を期初の2002年5月を100とした指数で示したグラフです。

        ファンダメンタルズの推移(月次終値ベース:2002年5月=100)
          ―2002年5月~2025年4月(2025年4月は18日終値)―

   

 紺色の線が予想EPS、赤線が米ドル、緑線がBPSを示します。カッコ内はそれぞれの期の実額です。
 この間に予想EPSは7.6倍になっており、日経平均(その裏にある基準相場)を引き上げた主要因が業績であることを示しています。同時にBPSも5.6倍に伸びていますが、これはリーマン・ショック、コロナ・ショック時に図の青線に見られるように業績が急落しファンダメンタルズが根本的に崩れる事態を防いだ”縁の下の力持ち”の役割が圧倒的な貢献として評価されます。

 米ドルについては、底値の2012年1月の76円19銭からピークの2024年6月の160円95銭までかなり大きな変動ですが、指数で見ると最小(61台)から最大(129台)まででも2倍台で、予想EPSの7倍台、BPSの6倍台の変動と並べるとずいぶん穏やかな変動になります。リーマン・ショック時、またロシアのウクライナ侵攻時のように為替が急激に変動する場合には株式相場に対する影響は短期的にはかなり大きいものになりますが、長期的な流れの中では、押しなべて為替相場の影響度はそれほど大きくはないと言えそうです。

 とは言え、ここにきてトランプ関税によって株式相場が乱高下する中、足元の為替相場の動向にも注目が集まりつつあります。そこで、最近の株式相場の変動をファンダメンタルズの動きに照らし合わせることで先行きの相場展開の見通しにつなげてみます。

 下図は2024年初から直近の2025年4月18日までの日経平均と 基準相場の日次ベースの動きを示すグラフです。

               日経平均と基準相場の推移(日次終値)
              ―2024年1月4日~2025年4月18日―

   

 紺色の線が日経平均、赤線が基準相場です。
 図から、期初の2024年1月4日には日経平均は基準相場を562円、1.6%下回り、直近の4月18日では159円、0.45%上回る状況となっており株式相場とファンダメンタルズは極めて近い水準にあり、期初と直近においては市場の相場構造は安定した状態にあると言えます。
 この間、7月11日の日経平均のピーク、この行き過ぎ高値からの8月5日の反動安、また、今年4月7日のトランプ関税による急落ではいずれも両者のかい離はそれぞれ11%を超えており、相場がこのような波乱状態に陥ってもその後ファンダメンタルズに戻ることがここでも実証された形です。

 ということで、足元の相場状況は一応ファンダメンタルズに見合う状況とみなすことができそうですが、逆に言うと今後のファンダメンタルズの動向によって先行きの相場が左右されることになり、ファンダメンタルズの先行きの見通しが注目されます。
 この意味で2025年に入ってから基準相場が下落基調を辿っており、特に4月半ばからトランプ関税による下落のペースが速まっている点が気になります。
 こうした近時の状況をファンダメンタルズから読み解くため、上の長期のファンダメンタルズの3つの指標の図と同様、期初の2024年初を100とした指数で直近の4月18日までの日次の3指標の推移を示したのが以下のグラフです。

        ファンダメンタルズの動き(日次終値ベース:2024年1月4日=100)
               ―2024年1月4日~2025年4月18日―

   

 紺色の線が予想EPS、赤線が米ドル、緑線がBPSで、カッコ内は実額です。
 2024年以降のファンダメンタルズの3要素の動きでは、長期の傾向とは様変わりに米ドルの変動の大きさが目立ちます。
  特に注目したいのは2025年に入ってからは3つの指標の連動度合いが強まっており、そしてこの動きは米ドルの下落が主導しているように見える点です。株式相場を決める最大の要因が企業業績の動向であることは変わりませんが、この企業業績が為替相場の動向によって引っ張られる姿がじわりと浮上してきた感があります。
 これは、前回の当欄でご案内した、米ドルが142円を下回る水準まで下落した場合は通常の変動範囲を外れ、ロシアのウクライナ侵攻時のような波乱局面へのとっかかりになる可能性があるとしましたが、21日の米ドル相場は141円台となり、ちょうどこの基準に達しました。
 今後の株式相場の動向を展望する第一の注目点として為替相場の動向が挙げられると見ます。




株式相場を構成する根っこにある動きを読み解くための各種の「基準相場」と「リスク回避指数」等の指標は、当講座の『相場の実相』で毎日無料で公開しています。お気軽にご参照ください。


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講師:日暮昭
日本経済新聞社でデータベースに基づく証券分析サービスの開発に従事。ポートフォリオ分析システム、各種の日経株価指数、年金評価サービスの開発を担当。2004年~2006年武蔵大学非常勤講師。インテリジェント・インフォメーション・サービス代表。統計を駆使した客観的な投資判断のための分析を得意とする。

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