ポートフォリオ戦略実践講座:「日経平均のあるべき姿を映す「基準相場」を直近の情勢を折り込んで再推計しました」  (2025/07/23公開)

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≪ ポートフォリオ戦略実践講座 ≫

   ー 日経平均のあるべき姿を映す「基準相場」を直近の情勢を折り込んで再推計しました -

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今回は当講座で提供しております、日経平均のあるべき姿を示す「基準相場」を直近の2025年6月までの情報を基に再推計した結果のご報告と併せて、改めて「基準相場」成り立ちについてご案内いたします。

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 「株価は基本的に企業の業績で決まる」と言われます。
 これは、会社の価値は理論的に会社が将来に渡って稼ぐ収益を金利とリスクで現在の価値に割り引き、その全てを足したものであるとされ、株価はこうして求まる会社の価値を適正に表す(はず)とされるからです。そこで、株価を評価する第一の要素は企業の業績となるわけです。

 ただ、個別の会社については将来に生じる思わぬ事件、工場の事故による製品の生産ストップ、あるいは新商品の想定外の大ヒットによる業績の上振れなど、将来の収益を左右する事柄全てを把握することは到底不可能ですから、将来の収益の合計である会社の価値を正確に捉えることはできず、したがって、個別会社については株価を正確に知ることは不可能とされます。
 しかし、いくつかの会社を束ね、いわゆるポートフォリオを組むと、これら個別会社のプラス・マイナスの要因がお互いに打ち消し合うことで、一般に全体としての収益のブレは小さくなります。
 例えば、急激な円高が生じた場合、輸入依存度の高い会社は輸入コストが下がることで業績にプラスに働き、一方で輸出主導型の会社にとっては輸出環境の悪化によって業績の下振れ要因になります。そこで、こうした2つの会社を組み合わせれば全体としての収益の変動は小さく収まります。

 すなわち、適正なポートフォリオを組むことで将来の全体としての不確実な業績の変動が小さくなれば、理論的なアプローチによる合理的な株価評価の有効性が高まることになります。このような銘柄組み合わせによる合理的な分析の有用性は「ポートフォリオ理論」として体系化され、理論的な投資分析の基本として確立しています。

 ここで、組み入れる銘柄数が多ければ多いほど銘柄間の収益の変動を相殺する可能性が高まり、全体としての収益の変動は小さくなるので、合理的な株価評価の有効性が高まります。そこで、当講座では究極の銘柄集団である市場全体、具体的には日経平均株価を対象として、合理的な検証を積み上げることでその構造を明らかにします。

 日経平均の構造を合理的に追及するための最初の作業は、冒頭に述べた「株価は企業の業績で決まる」という株価決定の原理の検証です。そのためにまず、日経平均株価の親元である会社、”日経平均会社”の業績(*)を求めます。

*日経平均会社の業績は”日経平均ベースの予想1株当たり利益(Earnings Per Share、以下「予想EPS」)”として求めます。詳しい求め方は下段の【ご参考】をご参照ください。

 下図は日経平均と上記の「予想EPS」の月末値の推移を、予想EPSが連続して得られる2002年5月から直近の2025年6月について示したグラフです。

               日経平均と「予想EPS」の月末値推移
                 ―2002年5月~2025年6月―

   

 紺色の線が日経平均で左目盛、赤線が予想EPSで右目盛です。

 図から、全体的に予想EPSと日経平均はよく連動しており、日経平均は業績との関連性が高いことが分かります。

 ただ、この間に生じた2008年9月のリーマン・ショック(かい離1)2020年3月のコロナ・ショック(かい離2)、そして2022年2月のロシアによるウクライナ侵略(かい離3)という3つの大事件において日経平均と業績の間に大きなかい離が生じている点が目立ちます。これらの局面では業績以外の要素が株式相場に強い影響を与えていたことが想定され、日経平均の構造を合理的に解明するというここでの目的のためにはこれらのかい離をもたらした要因を明らかにしなければなりません。

 各種の相場関連指標について統計的な検証を繰り返した結果、以下のことが明らかになりました。

〇リーマン・ショック時のかい離(かい離1)
 リーマン・ショック時のかい離については急激なドル安(円高)が主因として浮上しました。

 米ドルは2008年9月のリーマン・ショック以降、対円で2012年9月まで継続して下落(円高が継続)しましたが、これが投資家にとって為替市場の不透明感を増すことで相場に強い下押し圧力となり、相場の底這い状態を余儀なくさせたと考えられます。一方、業績の方は一時の急落からいち早く通常ベースへ回復した結果、相場との間にかい離が生じたのです。
 米ドルの急落(円の急騰)によって相場の低迷状態が長引いたことがリーマン・ショック後の業績と相場のかい離をもたらしたことで、米ドルを相場変動の説明要因に加えることでこのかい離は合理的に説明できそうです。

(*)ご参考までに:下図は日経平均と米ドルレートの月末値の推移を示すグラフです。日経平均は左目盛、米ドルは右目盛です。

                    日経平均と米ドルの月末値推移
                    ―2002年5月~2025年6月―

   

〇コロナ・ショック時のかい離(かい離2)
 コロナ・ショック時のかい離については、リーマン・ショック時とは逆に業績がショックの後に本格的な下落になったのに対し相場はショックによる急落の直後に底打ち、そこから急上昇に転じたことによります。
 このように業績と相場が逆方向に行き違いとなったのは、業績についてはパンデミックという未知の災害に対する不安が大きく企業経営者が極端な形で業績見通しを引き下げたのに対し、投資家にとっては最悪のケースで企業倒産となった場合に株主に残される最後の価値である会社の純資産が順調に上昇過程をたどっていることが相場に対する信頼感の高まりとなり、それが相場の抵抗力、さらには上昇力につながったと考えられます。
 すなわち、企業の純資産の充実が業績の極端な落ち込みに関わらず相場の早期回復をもたらしたことでコロナ・ショック時の両者のかい離が生じたと考えられます。

 日経平均ベースの純資産(*)を見ると、特にアベノミクスを機に増加ペースを加速させています。これは、企業がアベノミクスによる劇的な収益改善の成果をせっせと内部留保の充実に振り向けためです。企業がリーマン・ショックによって(業績悪の積み重ねではなく)手許資金の枯渇による突然死に直面した恐怖が骨身に沁みたためと思われます(この内部留保の積み上げ傾向は現在まで続いています)。

*日経平均会社の純資産は日経平均ベースの1株当たり純資産”(Book-value Per Share、以下「BPS」)として求めます。詳しくは「予想EPS]と同じく下段の「ご参考」をご参照ください。

(*)ご参考までに:下図は日経平均と「BPS」の月末値の推移を示すグラフです。日経平均は左目盛、「BPS」は右目盛です。

                    日経平均と「BPS」の月末値推移
                    ―2002年5月~2025年6月―

   

〇ロシアによるウクライナ侵略後のかい離(かい離3)
 ロシアによるウクライナ侵略は、全世界の誰もが(ただ一人を除いて)全く予想できなかった事件で、さすがにこの思いもよらない暴挙については、各種の検証においても業績と株式相場のかい離を合理的に説明する経済的な要素を見つけることはできませんでした。
 かい離3については相場の基本的な構造(ファンダメンタルズ)をベースとした相場自体の”自然治癒力(*)”とでも言うべきもので修復される以外にないと言えます。

(*)この点については別途、日経平均と今回のテーマである「基準相場」との関係から投資の現場における実戦的対応を支援する指標、「リスク回避指数」を提供しております。ご参照いただければと思います。

 さて、以上の検証から日経平均の構造は「予想EPS」「米ドルレート」および「BPS」の3つの指標で合理的に説明できると考えられます。
 以下の式はこれらの要素で日経平均の動きを最も良く説明する(誤差が最も小さくなる)ように推計された式です。
 当式によって規定される指標がすなわち、合理的に説明される本来のあるべき日経平均である「基準相場」になります。

基準相場(本来のあるべき日経平均)=―6,783+22.36*【予想EPS】+123.97*【米ドルレート】+4.886*【BPS】

 下図は上式に予想EPSと米ドルレート、BPSの実績値を当てはめて求めた「基準相場」と日経平均について2002年5月から直近の2025年6月まで示したグラフです。

                日経平均と「基準相場」の月末値推移
                  ―2002年5月~2025年6月―

   

 紺色の線が日経平均、赤線が「基準相場」です。基準相場は2008年9月のリーマン・ショックと2020年3月のコロナ・ショックでの日経平均と業績とのかい離を解消、また大幅に緩和しており、業績で説明しきれなかった相場の変動特性を米ドルとBPSによって適切に補足したことが分かります。
 図中の「決定係数」は基準相場が日経平均の変動をどの程度説明しているかを示す指標で、基準相場は日経平均の変動を95.0%と極めて高い確度で説明しています。

 なお、2022年2のロシアによるウクライナ侵略時のかい離については1年ほどでほぼ解消していますが、これは「相場はやがてファンダメンタルズに戻る」という相場形成における大原則が実証された事例と言ってよさそうです。




=== (*)ご参考:「予想EPS」と「BPS」の求め方 ===

1.「予想EPS」(日経平均ベースの予想1株当り純利益)の求め方
日経平均ベースの1株当り純利益は次の株価収益率(PER)の定義式を基に、以下のように求めます。

PER=株価/1株当たり純利益(EPS)
この式を組み替えると、
1株当たり純利益(EPS)=株価/PER
ここで、株価に日経平均、PERに日経平均の予想PERを当てはめれば、以下のように日経平均の予想EPSが求まります。
日経平均の予想EPS=日経平均/日経平均の予想PER
ただし、日経平均は構成銘柄の株式分割や銘柄入れ替えによって生じる不連続性を“除数”という係数によって修正しているため、ここで逆に除数の逆数に相当する“日経平均倍率”で割り戻すことで実数としての日経平均の予想EPSを求めます。
結果として、以下の式で日経平均ベースの予想EPSが求まります。
日経平均の予想EPS=日経平均/日経平均の予想PER/日経平均倍率

ちなみに2025年6月末の日経平均は4万487円で、予想PERは15.95倍、そして倍率は7.494ですのでこれらを当てはめると、2025年6月末の予想EPSは以下のように339円19銭として得られます。

予想EPS=4万487円/15.95/7.484=339円18銭。

2.「BPS」(日経平均ベースの1株当り純資産)の求め方

日経平均ベースの1株当り純資産は次の株価純資産倍率(PBR)の定義式を基に、以下のように求めます。

株価純資産倍率(PBR)=株価/1株当り純資産(BPS)
この式を組み替えると、
1株当り純資産(BPS)=株価/純資産倍率(PBR)
ここで、株価に日経平均、純資産倍率に日経平均の純資産倍率を当てはめれば日経平均の1株当り純資産が求まります。
日経平均の1株当り純資産=日経平均/日経平均のPBR
ここで予想EPSと同様に”日経平均倍率”で割り戻して実数に換算します。
日経平均の1株当り純資産=日経平均/日経平均のPBR/日経平均倍率

2025年6月末の日経平均は4万484円でPBRは1.45倍、そして倍率は7.484ですのでこれらを当てはめると、2024年6月末のBPSは次のように3,731円として求まります。

BPS=4万487円/1.45/7.484=3,731円。

*日経平均の予想PERとPBR、および倍率は日本経済新聞に毎日掲載されます。

以上です。




株式相場を構成する根っこにある動きを読み解くための各種の「基準相場」と「リスク回避指数」等の指標は、当講座の『相場の実相』で毎日無料で公開しています。お気軽にご参照ください。


*当講座についてのご意見、ご質問等ございましたら以下までご一報いただければ幸いです。
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当講座は投資判断力を強化することを目的とした講座で投資推奨をするものではありません。
当講座を基に行った投資の結果について筆者及びインテリジェント・インフォメーション・サービスは責任を負いません。


講師:日暮昭
日本経済新聞社でデータベースに基づく証券分析サービスの開発に従事。ポートフォリオ分析システム、各種の日経株価指数、年金評価サービスの開発を担当。2004年~2006年武蔵大学非常勤講師。インテリジェント・インフォメーション・サービス代表。統計を駆使した客観的な投資判断のための分析を得意とする。

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