ポートフォリオ戦略実践講座:「ウクライナ侵攻後のドル高・円安局面は異常状態の境目」を公開しました。  (2023/11/12公開)

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「ポートフォリオ戦略実践講座」です。

ー ウクライナ侵攻後のドル高・円安局面は異常状態の境目 -

 ロシアによるウクライナ侵攻を機に急激に進んだ円安・ドル高は、海外発のエネルギーや食品価格高騰による国内価格の上昇をさらに押し上げるというデメリットの一方、輸出関連企業の業績を押し上げるというメリットの側面もあり功罪相半ばで、「良い円安」、「悪い円安」といった単純な色分けはできません。

 重要なことは、急激な為替相場の変動を経て相場状況が不安定であることを認めたうえで、足許の立ち位置を冷静に見極め今後の動向の評価につなげることです。
 そこで、今回は短期的な変動を離れ、円ドル相場の長期的な変遷に注目して純粋に統計的処理によって客観的な相場評価を行います。
 まず近時のドル相場の動向を確認します。下図は2020年初から直近の2023年11月10日まで、米ドルレートの推移を日次中心値ベースで示したグラフです。

              米ドルレートの推移(日次中心値)
             ―2020年1月6日~2023年11月10日―

   


 期初の2020年1月6日に108円5銭だった米ドルは2022年2月24日のロシアのウクライナ侵攻時には114円95銭と2年余りで6円90銭、6%程度の緩やかな上昇でしたが、侵攻から8か月後の2022年10月21日には150円38銭と33年ぶりの高値を付ける急上昇となりました。
 さすがにこの上昇ペースは速すぎたようでその後反落しましたが、2023年1月を底値に再び上昇基調を強めていたところでガザの問題が勃発、為替市場の不安定度は再び高まり、直近の11月10日にはウクライナ侵攻後のピークを超える151円33銭を記録しています。

 為替相場はこのような荒っぽい変動によって足許の方向感が視界不良となっていますが、視点を長期に切り替えることで霧が晴れて確かな世界が見えてきます。
 下の図は1980年1月から直近の2023年11月までの円ドル相場の推移を月次ベースで示したグラフです。ここで、1980年から直近の1期前の2023年10月までは17時現在値の月中平均で、直近の2023年11月は足許の情勢をクリアに示すため10日時点1日分の中心値を取っています。

             円ドルレートの推移(日次値の月中平均)
        ―1980年1月~2023年11月(2023年11月は10日の中心値)―

   

 図から、まず目につくのが、世界の為替状況を一変させた1985年9月のプラザ合意の威力です。
 円ドル相場は合意から1986年9月までの1年間で236円台から154円台まで82円、34%急落しました。そして、その後の1987年以降は円ドル相場は一定の範囲で変動する安定的な変動過程に入っています。
 そこで、この1987年以降の安定変動期が現在に続く基本的なドル相場の形成構造であると見て、以下の統計的検証の対象とします。
 統計的な検証で最も基本的かつ重要な道具は平均値と平均的な変動幅で、以下の検証もこの2つの指標で行います。なお、平均的な変動幅の名称は「標準偏差」ですが、やや長いので、図では英語名のStandard Deviation を略して “SD”と記します。
 図では、平均値の113円87銭の位置を黒線で、平均値から標準偏差(SD)だけ上下に離れた位置を緑線で示しています。上側は130円56銭、下側は97円19銭で、ドル相場は確かにこの緑線の間で平均的に変動していることが見て取れます。

 ただ、この緑線の範囲を超えるケースも結構ありますので、標準偏差(SD)の2倍に範囲を広げた場合にどうなるかを示すのが赤色の線です。赤線で囲む範囲は80円50銭から147円25銭の間になり、ドルの変動はほとんどこの範囲に収まっています。この範囲を超えるケースは1990年の最高値を付けた時と2011年10月の最安値を付けた時、そして、2023年11月の3回のみになります。
 このことから、今回のドル高が1987年以来の37年間の相場変動の中で非常にレアなケースであることが分かります。
 ここで、統計学の知見によると、変動のパターンが一定の形(多くの自然現象で普通に見られる一般的な形)に従う場合、緑線の範囲に入る確率は約67%で、赤線の範囲に入る確率は約95%とされます。このことから、緑線の範囲内にあれば通常の変動の範囲で取り立てて意識する必要はないとされますが、赤線の範囲を外れる場合の確率は5%となり、これは通常の変動とは認められない、言い換えると異常な事態であることを示します。

 つまり、足許の151円33銭はこの赤線の範囲を外れていることで異常な状態に足を踏み入れていることになります。
 一方で、このことは「異常な状態は長続きすることはない」という真理に照らすと、異常状態を抜ける、すなわち異常事態の境目である147円台に向かう力が働くことにつながります。
 現在の水準は円高方向に傾くことになりますが、どうでしょう。



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(*)米ドル相場の出所:日本銀行。


講師:日暮昭
日本経済新聞社でデータベースに基づく証券分析サービスの開発に従事。ポートフォリオ分析システム、各種の日経株価指数、年金評価サービスの開発を担当。2004年~2006年武蔵大学非常勤講師。インテリジェント・インフォメーション・サービス代表。統計を駆使した客観的な投資判断のための分析を得意とする。

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