NEW 国際投資環境の視点から:「真殿教授のウクライナ現地報告:その2」を公開しました。  (2019/10/14公開)

<『サイト学習コース』>
「投資の地力養成講座」の「国際投資環境の視点から」
で新講座を公開しました。

ー 真殿教授のウクライナ現地報告:その2 -

前号に続き真殿教授の「ウクライナからの現地報告:その2」を特別号としてフル版で公開します。
前号ではその後もモスクワとの関連が新たに浮上するなど尾を引いているトランプ大統領のウクライナ疑惑の背景に焦点を当てました。
今回はこうした深刻な政治上の情勢と一歩距離を置いて市井の生活に見る経済の実態を報告します。
海外とりわけウクライナの事情に長い関わりを持つ真殿教授ならではの臨場感いっぱいの報告です。

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疲弊する地方

 キエフにいると東部でロシアと戦争していることは想像もできない。戦争は経済に大きな影響を与えているはずだが、体感する実体経済は戦争とは無縁だ。その一つの要因はインフォーマルセクターが大きいことかもしれない。

 交通渋滞が常態化し、外国製の高級車が目立つ。クリスチャチック、ポディールなど銀座や原宿、六本木に相当する地域ではおしゃれなレストランが増え続けて、予約が必要な人気店が多い。スーパーが増え、大盛況だ。高級スーパーもデパートも9時乃至10時から22時まで開いている。眺めの良い便利なところには高級マンションが増えている。官庁街とオフィス街と住宅街が同居し、その至近距離にあるオペラハウス、劇場、コンサートホール、フィルハーモニーホール、映画館、美術館には歩いていける。これほど快適な住環境の街は世界でも珍しい。
 対抗できるのはマンハッタンのミッドタウンくらいのものかもしれない。ウィーンではこうはいかない。旅行者は経済が成長軌道に乗ったという感覚に襲われる。しかし、当地の人々は「それはキエフだけ、一歩田舎に出ればこの国の貧しさは目を覆うばかりだ」という。確かに、そのキエフにも昔は珍しかった路上生活者や物乞いがいる。

 週末を利用してキエフから150キロ離れた隣の州の小都市を訪れた。出身者が故郷に建てた別荘に呼んでくれたのだ。キエフの街を抜けると市内では一日1台見かけるかどうかのラーダ(60年代にイタリアのフィアットの技術支援で作られた小型車)がまだかなり走っている。キエフが遠ざかるにつれラーダを見かける頻度が上がる。美しい秋の並木と農地の景観を楽しみながら高級車をぶっ飛ばす向こうからやってくるのは博物館入りしてもおかしくないポンコツ車というわけだ。  

 この街の人口は1万人余り、美しい広大な公園、教会、博物館、一日中歩いても飽きることがない。紅葉の美しさに圧倒されて立ち去りがたい。ただ、街外れにはソ連の崩壊とともに操業が止まったままの古い工場がいくつか残って幽霊屋敷化している。動いているのは砂糖工場だけ。人口は減り続けており、底を打つ兆しはない。 

 別荘は広大で何棟も分散している。その維持管理にたくさんの人が携わっている。街の中心部の一族御用達のカフェでも仕事のない親戚縁者が働いている。カフェの裏は大統領選挙への出馬を躊躇った人物の後援会事務所だった。カフェで働いていた人はみんな後援会員だった。大統領選に出ると目されながら土壇場で降りた人物は忘れ去られ、今は、数カ月のうちに迫った地方議会選挙に親戚が出馬するのでその準備が始まっている。

 中央政党は、街のことは何もわからないからね、とみんな屈託がない。名前は中央政党でも実体は街の助け合い集団に過ぎない。住民たちは自分たちの代表を街の議会に入れて金の流れをつかんでおきたいのだ。仕事のない街の金蔓に関わらないと食っていけない。中央と地方の有機的結合は見果てぬ夢だ。なるほど、地方ボスがいなければ地方経済はさらに疲弊する。

 この一族の繰り回すお金はわずかな部分しか表には出ない。車の運転や大工仕事、カフェの経営、インフラ工事、教会などの文化施設の修復、ほとんどがキャッシュだ。年金では公共料金も払えない。誰かがキャッシュを補填するか、家族の誰かが時々隣国ポーランドへ出稼ぎに行ってキャッシュを持って帰ってくるか、街の外から金が入ってこなければならない。

キエフの現金経済

 自分で稼ぐキャッシュか、誰かからもらうキャッシュか、庶民に入ってくるお金に占めるキャッシュの割合は今なお相当に高そうだ。キエフのホテルやレストランでも現金払いが当たり前だ。欧米の高級ホテルチェーンは別として昔からの地場のホテルでは、ホテルのレストラン料金を部屋にチャージできない。
 その場で現金払いだ。クレジットカードで払おうとすると機械が故障していると現金払いを要求される。従業員が着服するのか、ホテルが税金を払いたくないのか。ホテルのランドリーサービスもそうだ。一応ランドリーバッグと注文票は部屋にあるが、ランドリーは掃除のおばさんに渡してその場でキャッシュを払う。おばさんは洗い物の枚数を数え、こちらの差し出すお金を持っていく。金額はおおよそであれば、文句は言わない。翌日部屋に当のおばさんがこちらの居るタイミングを見計らって洗濯物を持ってくる。おそらくは、自分で持ち帰って洗ってくるのだ。
 洗濯物を出したおばさんが掃除の当番になると何故か、ペットボトルのおまけがつくようにもなる。もう二度とランドリーバッグと注文票が置かれることはない。それからは3日おきにおばさんに渡せばよい。そもそもこのホテルの宿泊料はチエックインの時に滞在予定期間の宿泊料を全額前払いさせられる。それにはカードシステムが動くが、それ以外は全部キャッシュだ。従業員はそれを一部乃至全額着服して給料の足しにしている様子だ。

 予約が必要な高級レストランはホテルと違って、カード払いができる。ただ、飲み物代と食べ物に分けてカードで2度払う必要がある。食べ物と飲み物とで税率が異なるためだ。カードで2回払い、チップは別途現金で払う。デパートや高級店での買い物も現金払いが珍しくない。
 10万円を超えるような買い物でも現金で払うお客が相当いる。だから、いつも相応のキャッシャを財布に入れておく必要がある。その分、街中では数十メートルおきに両替所がある。両替所ごとに為替レートが少し異なるが、どこもめまぐるしくレートが変わる。まさしく外為市場そのもので、日本の大手銀行の支店窓口で外貨を交換するのとは大違いだ。

 脇の甘いウクライナには外資のサービス産業進出が意外に進んでおり、ネットメディア、Uber、キャッシュカードなどのシステムがどんどん入ってきている。EU並みにこうしたシステムが入り込み、そこに現金にこだわるシステムが共存する。
 お金を吸い上げるのは銀行に限らない。銀行はこうしたシステムについていけず、公債のデイーリングで飯を食う。ずいぶん前のことだが、昔は、この国の銀行預金残高/GDP比率はザイールなどアフリカ諸国並みに一桁だった。今はどこまで上昇したのだろうか。路地裏感覚では、今なお決して高いとは思われない。

詳しい内容は本講座をご覧下さい。

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講師:真殿達
国際協力銀行プロジェクトファイナンス部長、審議役等を経て麗澤大学教授。米国のベクテル社、ディロン・リードのコンサルタント、東京電力顧問。国際コンサルティンググループ(株)アイジックを主催。資源開発を中心に海外プロジェクト問題への造詣深い。海外投資、国際政治、カントリーリスク問題に詳しい。

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