国際投資環境の視点から:「特別号ー真殿教授のウクライナ現地報告」を公開しました。  (2019/10/07公開)

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<『サイト学習コース』>
「投資の地力養成講座」の「国際投資環境の視点から」
で新講座を公開しました。

ー 特別号ー真殿教授のウクライナ現地報告 -

*今回は特別号として本講座と同様の内容を当「bCAMレポート」で公開します。
 本レポートによって今後提供する講座の内容を窺っていただくヨスガとしていただければ幸いです。

はじめに

 9月17日からイスタンブール経由のトルコ航空機でキエフに到着、10月8日まで当地に滞在する。去年2月から3月にかけてマイナス20度まで下がった寒い中を歩き回って以来1年半ぶりのキエフである。ウクライナの首都で滑り出し4カ月余のゼレンスキー政権とウクライナを考えた。

1.ウクライナ疑惑に沸くワシントンと静かな独立広場

 キエフ到着早々、米国大企業の何社かの経営者を経てサンフランシスコで悠々自適の日々を送っている友人からメールが入った。今度さるシリコンバレーのスタートアップ企業の社外取締役になったので、日本企業との関係で相談に乗ってくれないか。キエフでは毎夜オペラ、バレエ、コンサート三昧、それ以外は次々に開店しているレストランでうまい飯を食うことにしているから10月後半以降に話を聞こう、と打ち返した。お前、どこ行ってもホットじゃあないか、アメリカはウクライナ騒動でもちきりだぜ。当地選出のペロシ(ペロシ女史の地元はサンフランシスコ)はウクライナ疑惑でトランプ弾劾に走りそうだ、と返ってきた。

 滞在中のホテルはキエフの銀座兼霞ヶ関と言えるクリスチャチックストリートにある。こじゃれたお店、高級百貨店、人気のレストランやパブが軒を連ねている。同じ通りに面するスターリン・ゴシックの建物群にはキエフ市庁舎や中央省庁が入っている。街の骨格は大きくは変わっていないが、パサージには有名ブランド店が立ち並ぶようになり、街の様子は確実にアップグレードしている。ホテルから歩いてすぐの地下鉄マイダン駅上の独立広場は、これまで来る度にデモや抗議集会など政治的色彩を帯びおり、封鎖されていることも少なくなかった。今は静かな市民の憩いの場に戻っている。観光客はずいぶん増えた。中国系も銀座ほどではないが結構目立つ。

 マイダンが静かな時にアメリカでウクライナがホットニュースになるのは初めてのことだ。ウクライナのオリガルヒ(政商)の金がオバマ政権関係者に流れ込んでいたことはよく知られている。金の受け手は専らクリントン財団やブルッキングス研究所などの民主党系シンクタンクやロビイストであった。クリントン夫妻はウクライナ第2の政商が営むピンチューク財団(ヴィクトール・ピンチュークはウクライナ第2代大統領レオニード・クチマの娘婿だった。離婚しているので過去形表記となる)の主催するシンポジウムの常連であった。そのシンポジウムでちょっとしゃべれば数百万ドルの講演料が転がり込んだといわれた。ピンチューク財団の財務諸表には数千万ドルの寄付金がブルッキングスとクリントン財団に投じられていることが明記されてきたのに、受け手はそれを一切開示していない。専ら、金は民主党関係者に流れたことは明らかだが、共和党関係者もおこぼれに与っていた。ヒラリーと激しい選挙戦を繰り広げたトランプがピンチュークの主催するシンポジウム会場のテレビ電話に登場した数分で15万ドルもらったという話はスキャンダラスに米国で伝えられていたし、トランプの補佐官として活躍するはずだったフリンはヤヌコビッチ大統領の仲間からかなりの金を受け取るコンサルタントだったことが判明し、脱税で有罪となった。

 ウクライナの政変には必ずアメリカの影が付きまとう。冷戦後CIAから分離したNED(National Endowment for Democracy)からウクライナのいわゆる民主勢力に流れ込んだ資金量は50億ドルを超えると言われている(ユーロマイダン革命時の米国国務次官補ビクトリア・ヌーランドの発言)。その金でウクライナはアメリカの広告代理店を雇った。ユーシェンコが台頭したオレンジ革命でこのことを知った親露派のヤヌコビッチもアメリカの広告代理店を使うようになった。ワシントンの顔役たちは、民主党も共和党もウクライナマネーのおこぼれに与ってきたのだ。

 金は会社を通じても流れた。そもそもなぜバイデン副大統領の息子がウクライナのエネルギー関係企業の役員に収まって毎月5万ドルもの報酬を得ていたのか。父親が副大統領で米宇関係の責任者であったことと無縁ではないはずだ。2014年のユーロマイダン革命でポロシェンコ政権の首相に就任したヤツニュークが橋渡しをしたといわれている。ヤツニュークは、盗聴され世界の一流紙に一言一句そのまま掲載されたビクトリア・ヌーランドの電話に登場する。Fuck EUと叫んだあの有名な電話だ。首相は経験豊富なヤツ(ニューク)がよいと、事実上オバマ政権のウクライナ担当国務次官補に指名されて首相になった。そのヤツニュークにドネツク出身の件の会社の持ち主が頼み込み、(おそらくヤツニュークの紹介で)バイデンの息子が役員になった。トランプはこの点を軽率にもゼレンスキー大統領との電話で持ち出したのだ。何度か電話するうちに二人の会話は不動産屋と芸能プロ社長のそれになっていった。ついついお互い本音を漏らした。ゼレンスキーの「EUの支援は十分ではない」発言にEUは怒った。アメリカよりたくさん金をつぎ込んである。何事か。ゼレンスキーはメルケルやマクロンの信頼を失いつつある。

 ウクライナ(ゼレンスキー)の本音には、「ユーロマイダン革命までEUは口で煽り続けるだけだった。煽り続けた挙句に、思いもよらぬ形でヤヌコビッチ政権が転覆し、ウクライナに金をつぎ込まざるを得なくなっただけじゃあないか。EUに正式加盟するまでに、何十年もかかるかもしれない途方もない改革を強いられるウクライナを見越して、早くEUに入ってポーランドのように豊かになれ、と対岸の火事を見る見物客のように叫んでいただけだ。思いがけず、ロシアと戦闘状態に入り、EUに安全保障の危機が訪れ、アメリカの圧力もあって仕方なく支援しているだけじゃあないか。」というところがある。

 ゼレンスキーは素人だった。国を代表するようになると、Political correctnessと本音の微妙な組み合わせが必要になる。学習効果が早く上がらないとあちこちで足をすくわれるのかもしれない。言いたいことはたくさんあろう。いくら大統領選挙だといっても、ウクライナを国内の政争に巻き込まないでくれ。それでなくてもウクライナの抱える課題は多いのだから。

 しかし国際政治の闇は深い。当地のジャーナリストの一人が、ポツンと言った。アメリカでウクライナ疑惑を騒ぎ立てるように画策しているのは中国に違いない。米国の関心をウクライナに向けようとしている。米中摩擦への関心が減れば、対立は落ち着くはずだ。ウクライナには諸外国が利用する種が尽きない。

 別な人物がささやいた。民主党はバイデンを切り捨てたな。このままいけばウォレンvsトランプになるぞ。トランプ再選で決まりじゃあないのか。しかし、一寸先は闇、は世界共通だ。脇の甘いウクライナには一寸先は闇のネタがごろごろしている。

講師:真殿達
国際協力銀行プロジェクトファイナンス部長、審議役等を経て麗澤大学教授。米国のベクテル社、ディロン・リードのコンサルタント、東京電力顧問。国際コンサルティンググループ(株)アイジックを主催。資源開発を中心に海外プロジェクト問題への造詣深い。海外投資、国際政治、カントリーリスク問題に詳しい。

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