理論株価で相場評価:「市場リスクを測る資本コストの求め方と利用の実際:特別編」  (2017/08/25公開)

============  「理論株価で測る相場の位置づけ」  ==========

              ― 市場リスクを測る資本コストの求め方と利用の実際:特別編 ー 


 今回の講座はこれまで何回か当講座で用いつつ詳細な説明は省いてきました「資本コスト」と市場リスクの関係、およびその実際の相場分析への適用の仕方について、有料の「ポートフォリオ戦略実践講座」と同等の内容を特別編としてお届けします。
 「資本コスト」とは何か、から解き起こし相場の不安定な動きと市場リスクの関係を実証的に分析、今後の相場分析へのステップへつなげます。

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「資本コスト」とは
 「資本コスト」は多くの方にとって余り耳慣れない言葉だと思います。しかし、これはある意味、株式投資に当たって最も重要な概念のひとつなのです。
 その意味は、株式投資には無論、リスクがつきもので、投資家はリスクを承知で投資をするわけですが、投資に当たってこのリスク負担に対する見返りとして要求する上乗せ分の報酬を「資本コスト」と言います。
 株主が要求する「リターン」を「コスト」と言うのは違和感を覚えるかもしれませんが、この上乗せ分の報酬は会社にとっては株主の会社の資本への出資に対して当然支払うべき負担、と言う意味で資本に関するコスト、すなわち「資本コスト」と呼びます。

「資本コスト」はリスクの大きさに相応
 資本コストは上述のように投資に伴うリスクというマイナスを相殺するために要求する報酬ですからリスクが大きければそれに見合って報酬、すなわち資本コストも大きくならなければなりません。すなわち、資本コストはリスクの大きさと相応する大きさになるのです。
 こうした投資リスクの大きさを表す資本コストを実際の数値として捉えるために、投資の原点から考えてみます。

資本コストの根っこは投資の原点である会社の価値の決定方式
 株式投資の原点は、会社の正しい価値を見極め株価が会社の価値を下回っていれば買い、上回っていれば売ることです。いずれ、株価は会社の正しい価値に収斂すると考えられるので、その過程で反対売買をすることで確実に利益を得ることができるというわけです。
 というわけで、会社の正しい価値を求める方法は、古今東西、様々な形(一定の関係式で表したものはモデルと言います)で工夫、実践されてきました。
 その中で実践性に優れているEBOモデル(*)という方式に注目します。このモデルは株主の立場から見た会社の価値を足元の価値から将来、得られる価値の増分を積み上げるという、いわば愚直な考え方に基づいた方式です。
(*)当モデルを提唱した米国の3人の研究者、Edward,Bell,Ohlsonの頭文字をとって名付けたものです。

 株主にとっての足許の会社の価値は株主の持ち分である純資産(自己資本)です。これを起点に先行き得られる株主に帰属する価値、すなわち純利益を全て足し込むことで現在の会社の価値とします。すなわち、会社の価値は以下の式で表します。

会社の価値=直近の純資産+将来の全ての純利益の合計

 ところが、株主にとってみれば投資のリスクに見合う分は当然の報酬であり、会社の価値の増分には含めない、ということで純利益からこの報酬分、すなわち、資本コスト分を差し引いたものを会社の価値の増分とします。ここで、資本コストは株主の持ち分である純資産に対する収益率で表すこととします。すなわち、株主の要求リターンは以下の式となります。

株主が要求する投資リスクに見合うリターン=資本コスト*純資産

よって、株主が評価する会社の価値は以下の式で示されます。

会社の価値=直近の純資産+将来の全ての(純利益―資本コスト*純資産)の合計

 ただし、将来の純利益と純資産の価値を現時点で評価するためには一定の割引率で割り引かなければなりません。この割引率は投資家が将来得たいと期待する収益率になりますので、すなわち資本コストそのものになります。以上をまとめると、会社の価値は次のように示されます。

会社の価値=直近の純資産+将来の全ての{(純利益―資本コスト*純資産)/(1+資本コスト)}の合計

 さて、会社の価値は上式で示されますが、問題は将来の純利益と純資産と資本コストをどのように設定するかです。ここで、EBOモデルは以下の前提を置きます。

1.将来の純利益は一定。
2.将来の資本コストは一定。

 この前提の下で上の式を一定の手順で展開すると、会社の価値は以下の極めて簡便な式にまとめることができます(この式の展開にご興味がおありの方はinfo@iisbcam.co.jpまでお問い合わせください)。

会社の価値=直近の純資産+(直近の純利益―資本コスト*直近の純資産)/資本コスト

 この式がすなわちEBOモデルです。この式では将来ではなく、入手可能な直近の純利益と純資産で会社の価値が表されているところがポイントです。この点がEBOモデルの実践性に優れた点で、実際の投資分析によく使われるポイントです。

資本コストを市場リスクとして求める
 上式で得られる会社の価値を株価分析に適用するために各指標を1株当たりの指標に置き換えます。

1株当たりの会社の価値(株価)=直近の1株当たり純資産+(1株当たり純利益―資本コスト*直近の1株当たり純資産)/資本コスト

 ここで、今、市場が会社の価値を正しく評価して株価が会社の価値と一致しているものとします。すると、会社の価値に株価を当てはめることで市場が適正な場合の資本コストを逆算によって以下のように求めることができます。

株価=直近の1株当たり純資産+(1株当たり純利益―資本コスト*直近の1株当たり純資産)/資本コスト
   =1株当たり純利益/資本コスト

上の式を資本コストを求める式に組み替えると、

資本コスト=1株当たり純利益/株価

 この関係式を日経平均に当てはめることで、日経平均ベースの資本コスト、すなわち市場全般の資本コスト、すなわち、冒頭に述べた市場のリスクを得ることができます。
株価として日経平均、純利益には日経平均ベースの純利益(*)を当てはめます。
(*)日経平均ベースの1株当たり利益(と1株当たり純資産)の求め方については当サイトの理論株価の解説をご参照ください。

 以上の結果、市場リスクは以下の式で求められます。

市場リスク(日経平均の資本コスト)=日経平均ベースの1株当たり純利益/日経平均

 ここで、実務への適用に当たって、日経平均ベースの純利益は元来は将来の想定利益であることから最新の予想利益を採用します。こうして求めた日経平均の資本コスト、すなわち市場リスクを実際の相場分析でどのように活かすのか、以下で見ていきましょう。

市場リスクの実際と相場分析への適用
 以下の図1は上の式で求めた日経平均の資本コスト(市場リスク)の日次ベースの推移を2016年1月から2017年8月18日まで示したグラフです。

 図1.資本コスト(市場リスク)の推移と標準(平均)リスク、通常変動の上側と下側
                   ―2016.1.4~2017.8.18-

日暮戦略201708B

 図の中央の黒線は市場が標準的なリスクとして認めるリスクの水準を表します。これは、リーマン・ショックの混乱が収まって市場の指標が正常化した2010年5月から2017年8月までの資本コストの平均値で、市場は過去の実績としての平均的なリスク水準を標準として受け入れる、としたものです。実際の値は6.58%で、これは市場は株式投資によって6%半ばのリターンを要求していることを示します。
 標準リスクを挟んで上下にある赤い線はリスクの平均的な変動範囲を示し、この範囲であればリスクはノーマルな状況であることを示します。変動範囲を決める対象期間は近時の情勢を重視して2016年1月から2017年8月までとし、標準リスクの対象期間より短くしています。結果は、上側が7.01%、下側が6.15%で、市場リスクはほぼ6%から7%の間であれば市場はノーマルな範囲、言葉を変えれば株式相場はファンダメンタルズに即した動きをするとみなせるメドになります。

 こうしたリスクの動きと実際の株式相場の関係を見るためのグラフが以下の図2です。

              図2.日経平均、理論株価と変動の上限、下限
                     ―2016.1.4~2017.8.18-

日暮戦略201708A

 紺色の線が日経平均、青線がファンダメンタルズを反映した妥当な日経平均の水準を表す理論株価(詳しくは上述の理論株価の解説をご参照ください)を示し、赤線が日経平均の変動の上限と下限を示します。上限と下限の推計期間は図1と同じく2016年初から2017年8月を対象に求めています。

 図1と図2では相場が急落した3つの事件、すなわち、2016年2月の(1)中国など新興国の経済減速の不安からの急落、同じく6月の英国のEU離脱の(3)BREXITショック、そして11月の(3)トランプ・ショックを指摘しています。いずれの時点も日経平均は理論株価を大幅に下回り(2月と6月には変動の下限も下回り11月も下限に近づいています)、一方で、市場リスクはノーマルな変動範囲である赤線を大きく越えて上昇しています。
 相場がファンダメンタルズを大きく外れる時は裏に市場リスクの大きな変動がある事を示しています。逆に言うと、市場リスクが通常の変動範囲を超えると相場は不安定化し、注意すべき局面になっている可能性を示します。
 この意味で、直近の市場リスクが通常変動の上側を上回っている点は注目すべきかもしれません。

 今回の講座は資本コストと市場リスクの関係の解説をメインとしたことで、市場リスクの実践への適用の説明は以上としますが当講座で折々に市場リスクを使った実際の相場分析を行っています。ケース・スタディとしてこれら講座を参照することで市場リスクと相場変動の関係をより深く理解していただけれるものと思います。是非ご参照ください。

(*)理論株価、通常変動の上側、その他の相場判断のための指標は当サイトの「理論株価で測る相場の位置づけ」の会員限定版で毎日更新、公開しています。会員登録した当月は会費はかかりません。お気軽にお試しください。

講師プロフィール:日暮  昭

日本経済新聞社においてポートフォリオ分析システム、年金運用評価システム、各種の日経株価指数の開発を担当。2004~2006年武蔵大学非常勤講師。インテリジェント・インフォメーション・サービス代表。

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