理論株価で相場評価:「北朝鮮の挑発で市場リスクは通常範囲を超えて上昇、日経平均の先行きは?」  (2017/08/11公開)

============  「理論株価で測る相場の位置づけ」  ==========

     ― 北朝鮮の挑発で市場リスクが通常範囲を超えて上昇、日経平均の先行きは? ー 


 北朝鮮の核・ミサイル挑発、それに対するトランプ米大統領の対応が緊迫の様相を呈する中、膠着状態を続けてきた株式市場は下落、日経平均は8月9日に250円余り急落しました。
 今回は株式相場がこう着状態から急落した背景を市場リスクの面から探り、先行きの相場動向をファンダメンタルズとの兼ね合いで評価します。
 下図は株式相場がこう着状態に入る前の5月から直近の8月10日までの日経平均、理論株価、日経平均の通常変動の上側と理論株価の決定要因である予想EPS、米ドルレートの動きを日次ベースで示すグラフです。

    日経平均、理論株価、通常変動上側と予想EPS、米ドルレートの推移
                ―2017.5.1~2017.8.10-

相場20170811A

 線が色々と立て込んで恐縮ですが、紺色が日経平均、青線が理論株価、赤線が日経平均の通常変動の上側をそれぞれ示します。予想EPSは緑線、米ドルレートは紫線です。各指標の後の数値は直近の8月10日の値を示しますが、日経平均については節目となる5月18日の値を併せてピンクの枠で示しています。
 2本の茶色の縦線は予想EPSの急上昇によって理論株価と通常変動の上側がピークを付けた5月16日と、日経平均と理論株価の膠着状態が始まった6月1日を記します。

 下図は上図と同じ期間について市場リスクの変遷を示すグラフです。市場リスクはこれまでにご紹介した“日経平均会社の資本コスト(*)”で示します。

    市場リスク(資本コスト)の変遷と標準リスク、通常範囲の上側と下側
                ―2017.5.1~2017.8.10―

相場20170811B

 紺色の線が市場リスク、中央の黒線が“標準リスク”、標準リスクを挟んで上下にある赤線は市場リスクの通常の変動範囲を示し、ノーマルなリスク水準の境界を示します。
 標準リスクはリーマン・ショックの混乱の後、資本コストの算出が正常化した2010年5月から直近の2017年7月までの資本コストの月次終値の平均値です。市場は過去のリスクの平均をノーマルなリスク水準として受け入れる、としたものです。リスクの通常変動の範囲としては近時の情勢を重視して、対象期間を2016年1月から2017年8月10日までとして求めています。結果として、標準リスクは6.58%、通常の変動範囲は0.37%となりました。したがってリスクのノーマルな変動範囲は上が6.95%、下は6.21%となります。

 2本の茶色の線は上図と同じ5月16日と6月1日を示します。この期間を市場リスクの観点からみると、5月16日はトランプ米大統領のロシア疑惑でリスクが急激に高まり通常変動の範囲を超えた日、6月1日はそこから2週間後で、通常変動の上側に向かって低下を始めた日です。新しい材料が出なければ市場の不安は自ずと落ち着くという市場心理を反映したものと見られます。ただし、リスクは低下しましたが通常範囲の上限に張り付いた水準が続きます。
 こうしたリスク水準の面からは6月以降の株式相場は弱含みで推移しても当然と見られますが、一方で業績に裏打ちされたファンダメンタルズがしっかりと支えたことで株式相場は両面からの微妙なバランスが保たれて6月以降の膠着状態に入ったと見られます。

 それが、ここにきて北朝鮮の執拗な挑発によってリスクが上昇に転じました。図のピンクの枠は上図と同じ5月18日と直近の8月10日の水準を併せて示したものです。両日のリスクは7.14%と7.16%と同レベルで、足元のリスクはトランプ大統領のロシア疑惑が盛り上がった時と同程度である事を示します。当時の日経平均は1万9,550円で今より200円程度低い水準となっていますが理論株価との対比でみれば現状が割高とは言えません。

 ファンダメンタルズは依然堅調であることから、もし、この先、北朝鮮が新たな挑発行為を繰り出さなければ株式相場は以前の例に倣ってリスクは通常範囲の上限辺りまで低下して落ち着き、株式相場は日経平均2万円程度に戻ることも想定されましたが、新たにグアムを射程にし、ミサイルの日本の上空通過まで言及するに至って、リスクは一段の高まりがありそうです。ちなみに、2016年以降でリスクが最も高まったのはトランプ・ショック時の7.27%です。
 その時の日経平均は1万6,250円でした。当時とはファンダメンタルズは異なりますが、リスクがそこまで高まった場合は一つのメドになるかも知れません。

(*)“日経平均会社“の「資本コスト」
「資本コスト」は投資家がリスク負担に対する報酬として要求するリターンを意味します。リスクが高ければそれに見合うリターン、すなわち資本コストも高くなることからリスクの大きさを表す指標として使われます。市場を表す日経平均の資本コストはすなわち市場全体のリスクを表すことになります。詳しい内容は別の機会でご案内する予定です。

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講師プロフィール:日暮  昭

日本経済新聞社においてポートフォリオ分析システム、年金運用評価システム、各種の日経株価指数の開発を担当。2004~2006年武蔵大学非常勤講師。インテリジェント・インフォメーション・サービス代表。

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