理論株価で相場評価:「ファンダメンタルズと市場リスクがせめぎ合う株式相場」  (2017/05/21公開)

============  「理論株価で測る相場の位置づけ」  ==========

           ― ファンダメンタルズと市場リスクがせめぎ合う株式相場 ー 


 トランプ米大統領が5月9日に突然コミーFBI長官を解任したことを機に世界規模で株式相場は不安定化しました。日経平均は5月11日の1万9,961円をピークに下げに転じています。
 一方、ファンダメンタルズの面では改善が続いています。米ドルは弱含みながら概して為替市場は落ち着いており、業績は今期予想が織り込まれるのに伴って過去最高を更新中です。日経平均ベースの予想EPSは直近の5月19日には162円台となり、これは前年比で20%程度の増益となっています。
 下図は2017年初めから直近の5月19日までの日経平均、理論株価、通常変動の上側と、ファンダメンタルズ要因である日経平均ベースの予想EPSと米ドルレートの推移を示したグラフです。

     日経平均、理論株価、通常変動の上側と米ドルレート、予想EPSの推移
                    ―2017.1.4~2017.5.19-

相場評価20170519A

 紺色の線が日経平均、青線が理論株価、赤線が通常変動の上側を左目盛で示します。そして、緑色の線が予想EPS、紫色の線が米ドルレートで右目盛りで示します。各指標の後の値は5月19日の値です。
 5月以降、緑線の予想EPSの上昇に引っ張られる形で青線の理論株価と赤線の通常変動の上側が急上昇しているのが分かります。

 一方、日経平均は5月11日をピークに腰折れの形でそれまで軌を一に推移してきた通常変動の上側から下離れし、19日には日経平均は1万9,590円と理論株価の1万9,798円、通常変動の上側の2万879円といったファンダメンタルズに基づく水準を大幅に下回っています。
 こうしたファンダメンタルズと実際の相場とのかい離をもたらした原因は市場リスクの高まりと考えられます。
 市場リスクの大きさは、株主が投資によって負担するリスクに見合う報酬として要求するリターンを意味する「資本コスト(*)」で表すことができます。下図はこの資本コストを上図と同じ期間について示したグラフです。

   市場リスク(内部資本コスト)の推移と標準リスク、平均変動の上側と下側
                  ―2017.1.4~2017.5.19-

相場評価20170519B

 紺色の線が市場リスクの推移を示します。中央の黒色の横線は市場がノーマルなリスク水準として受け入れられるリスクの位置を「標準リスク」として示したものです。これは連続して得られる最長期間である2010年5月から直近の2017年5月までの市場リスクの平均値で、市場は負担せざるを得ない標準的なリスクの水準として過去の平均的なリスク・レベルを受け入れる、としたものです。
 黒線を挟んで上下にある赤線は、標準リスクを中心にリスクの平均的な月間の変動範囲を示し、この範囲であれば通常のリスクの範囲に収まるメドを示しています。言い方を変えれば当面のリスクの上限と下限を示します。
 結果として標準リスクは6.57%、当面のリスクの上限である平均変動の上側は7.01%、当面の下限である平均変動の下側は6.13%になります。これは、市場は株式投資によって通常は6.5%程度のリターンを要求しており、リスクが想定範囲以上に高まれば要求リターンを7%以上に高め、リスクが想定範囲を下回れば要求リターンも6%以下に低めることを示します。

 図より、市場リスクは2017年初めから標準リスクと平均変動幅の下側の間で推移して来ましたが、コミーFBI長官の解任を機に5月12日に節目である標準リスクを超え、以降、一貫して上昇しています。5月17日には当面の上限とみなせる平均変動幅の上側を超え、19日には7.11%に達しています。実はこの水準は昨年11月9日のトランプ・ショック時の7.27%以来の高い水準となります。奇しくも今回のコミー・ショックはトランプ大統領誕生時のショックと同レベルまでリスクが高まることになりました。
 半面でファンダメンタルズは好調な業績を背景に着実に改善を維持しており、株式相場は市場リスクと好調なファンダメンタルズのせめぎ合いの様相を呈しています。今後のリスクの動向次第で上昇、下落のどちらかに大きくシフトする可能性をはらんでいると言えます。
 予断は許せませんが過去の経緯からリスクがいずれ標準リスクに向かって収れん(低下)するならば日経平均は理論株価、さらに通常変動の上側に向かうと思われます。その場合、日経平均の高値のメドは2万800円程度になります。

(*)「資本コスト」については別の機会に稿を改めてご紹介します。

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講師プロフィール:日暮  昭

日本経済新聞社においてポートフォリオ分析システム、年金運用評価システム、各種の日経株価指数の開発を担当。2004~2006年武蔵大学非常勤講師。インテリジェント・インフォメーション・サービス代表。

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