国際投資環境の視点から:「トランプ勝利の背景―Silent majorityとVocal minorityー」を公開しました  (2016/11/14公開)

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<『投資を学ぶ』コーナー>
「投資の地力養成講座」の「国際投資環境の視点から」で新講座を公開しました。

今回はテーマが米国大統領選挙の背景評価ということで執筆者(麗澤大学教授 真殿達氏)の了承を得て特に全文をご紹介します。

ー トランプ勝利の背景―Silent majorityとVocal minority-

 開票が始まってから何時間かたっても接戦が続いていた。それでも、トランプが勝利するという予想はなかった。実際、クリントン陣営はマンハッタンで盛大な祝勝会を計画しており、クリントンを応援するCNNは夫妻が黒塗りの車を連ねてニューヨーク郊外からマンハッタンの会場に向かうところを一部始終中継していた。

 トランプが勝利宣言をするほんの数時間前まで、「移民に仕事を奪われている貧しい教育レベルの低い白人労働者という社会のマイノリティにしか支持されていないデマゴーグ」というレッテルを張られてきたトランプが勝つはずはなかった。
 結果は、当の本人たちまでもビックリ仰天させた。クリントンの敗北宣言は一呼吸置くことになった。それほどにクリントンの勝利は動かないはずだった。

 トランプはアメリカのSilent Majorityをつかんで勝利した。アメリカのSilent Majorityは、初の黒人大統領というヘテロな人物がもたらした8年の混乱に辟易とし、その混乱の一翼を担ったことに何の反省もないままに、政策上はオバマ政権の継続となるクリントン大統領を忌避したのである。
 富める白人も教育水準の高い白人も多くがトランプに投票した。オバマ政権への不満をかき集めたことこそが、トランプの最大の勝因であった。

 クリントンは、人種的には黒人、ヒスパニック、アジア系など非白人、ビジネスではウォールストリート、IT、ハリウッド、メディア、換言すれば、それぞれのグループはminorityでも、合算すれば圧倒的多数を形成するという盤石な支持基盤に乗っていた。

 メディアはクリントン支持でほぼ固まり、世論操作にも及んだ。発言力の大きい、目立つ、したがって、影響力の大きいminorityを足し合わせ、相乗させてきたのだった。
 そう、Vocal minorityの力に頼ってきた。特権階級の力と言い換えてもよかった。だが、司法長官がVocal Minorityなら、メール疑惑捜査を禁じられた怒りを保守系メディアにリークすることによって、FBI長官に再捜査書簡を下院に発出させたFBIの捜査官たちはSilent Majorityだった。

 敗北にクリントン以上に大きなショックを受けたのはメディアかもしれない。
 寡占と巨大化が進み、報道ミス程度では経営基盤が揺らぐことがない日本のメディアと異なり、経営基盤の弱いアメリカ

の新聞社の中には、クリントンへの肩入れ過多が躓きのもとになって倒産するところも出てくるかもしれない。
 実際、有力紙でトランプを支持したのは1紙に過ぎず、それを明らかにしたのは投票日直前だった。クリントン勝利を前提に何でもありの編集態度に出たことに対する社会のペナルティは小さくはないはずだ。失われた信頼を回復することは容易ではない。

 総得票数においてクリントンが20万票ほど上回ったことをもって、制度的欠陥とあげつらう向きもあるが、これこそがアメリカが連邦政府たるゆえんで、地方分権が貫かれている証左でもある。
 大統領選挙人数は人口に比例して見直されてゆくので、日本の様に一票の格差が開いたまま放置されることはない。カリフォルニアがかつては最大の票田だったニューヨークを4割近く上回る55人の選挙人を抱えていることや中西部の大票田といわれたイリノイの選挙人数が今や20名にまで低下していることを思えば、その是正ペースは迅速である。
 FBIがクリントンの再捜査を発表した時点(10月28日)で4000万人以上が不在者投票を済ませていたことを考えれば、20万票の差はないに等しい。

 逆に、選挙戦終盤にクリントン人気が腰折れし、支持率が高いといわれたオバマが、歴代のどの大統領もしなかったほど極端に自派候補に肩入れしたことがクリントンの息の根を止めたのかもしれない。
 それほど白人層にオバマ政権の失政は大きく映っていたのである。オバマはFBIを公然と批判するという禁じ手も使った。米欧関係はNATOの位置付けやロシアとの関係でかつてない危機にあり、中東ではこれまでの介入は何だったのかと思われるほどアメリカの影は薄れ、アジアでは中国が勝手に海軍力を展開し始めた。

 すべてオバマ政権下のことである。その種はビル・クリントン政権からブッシュ政権下にまかれたものばかりであり、大きくしたのはオバマだった。内外政ともに、アメリカはオバマが弱めたファンダメンタルズの流れを止める可能性をトランプに求めるしかなかったといえる。

 VocalかSilentか、と言えば、トランプ個人は終始Vocalであった。果てることの無いほど舌禍事件を繰り返し、メディアに毒づき続け、相手陣営から過去の不届きな発言や事実を次々と暴露された。
 個人的には金持ちとはいえ、選挙資金はクリントンの数分の一しか集まらず、強力な選挙チームを作ることもできず、ふんだんにテレビコマーシャルを流すこともなかった。しかし、トランプは何があってもVocalに対応した。自ら動きしゃべり続けて勢いを保った。
 最近の大統領選挙で最も個人的に豊かな候補でありながら、これほど金をかけなかった候補はいなかった。これほどエネルギッシュに喚き散らし続けた候補もいなかった。70歳にしてこのパワー。味方になればこれほど心強い人物はいないのかもしれない。
 逆もまた真である。

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